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July 2012

Don't look back in anger

息子がどうやらギターを好きなので、
休日の食事どきなどにじゃらじゃら弾く。

先日、なんとなくやっているうちに
OasisのDon't look back in angerになり、
オアシスは妻にとっても思い出深いものだから
(高校時代カナダに留学した際、
 Morning Gloryをよく聴いていたそうだ)
久しぶりに歌ってみた。

いったい何について歌っているのか、
詩の意味は全然わからない。
しかし、やはり素晴らしく良い歌である。

たとえば冒頭の
"Slip inside the eye of your mind"
とか
サビ前の
"You ain't ever gonna burn my heart out"
とか、
カタカナで書けば
「すりぴんさいーでぃあいおびょーまーあいん」
「ゆーえいんえう゛ぁーごーなばんまーはあらあーああ」
て感じなのだが、
これを声に出して歌うと
なんだかよくわからないけど
とにかくすごく気持ちいい。

で、サビだが

And so, Sally can wait
She knows it's too late as we're walking on by
Her soul slides away
But don't look back in anger
I heard you say

一行目の"so""wait"と
三行目の"soul""away"が韻を踏んでいる。
これがもうとにかく、ものすごく気持ちいい。

ただ
何を歌っているのかは、やっぱり皆目わからない。
(サリーって誰だ)

作曲したノエル・ギャラガー自身、この詩について
「単なる言葉遊びで、意味など無い」などと言っていて、
・・・いやーそんなことはないでしょう、
そんなのカッコよすぎるでしょうと思うのだが、どうだろう。
本当にそうなのかもしれない。

重要なのは、
この詩が何を言っているのかさっぱりわからないのに、
全体としては
それこそ立ちのぼるように『切ない』ということだ。
『全体として』
青春の終わりとでもいうべきものが
過不足無く表現されているように強く思える。

荻原朔太郎は「月に吠える」の序文で

『すべてのよい叙情詩には、
 理屈や言葉で説明することの出来ない一種の美感が伴ふ。
 これを詩のにほひといふ』

と書いていて、
この考えがまったく朔太郎オリジナルのものなのか、
それより前に
ヴェルレーヌやランボオあたりが言ったことなのかは知らないのだが、
まったくもってこの『詩のにほひ』というやつが
Don't look back in angerには充満している。
今さらながら、ノエル・ギャラガーは凄い。

僕はオアシスのライブを一度しか観たことがない。
2005年の秋、高校時代のバンド仲間が
「代々木体育館のチケットが4枚とれた。
 俺とヨメさんとおまえと、
 あとおまえが誰か誘って4人で行こう」と言うので
それはいいねとほうぼう声をかけてみると、
どうしたものかその時にかぎってみんな都合が悪く、
最後に声をかけた、
当時ほとんど面識の無かった後輩の女の子が来ることになった。

さらに当日になって
今度はチケットを取った友人夫妻が来られなくなり、
結局、僕はほぼ初対面の
その女の子とふたりでオアシスを観たのだが、
その彼女が、いまの妻である。
あのとき、大声で合唱したDon't look back in angerは忘れがたい。

ロンドンオリンピックの開会式で
アークティック・モンキーズが演奏していたが、
「ここでオアシスが見たかったなあ」
と思ってしまったのはトシのせいだろうか。
(事実上)解散してしまったのは実にもったいないことである。

Emotional version of "Don't look back in anger" live 2009

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それもいい それでいい

息子が寝ている部屋のほうから ふんふん不穏な声がするので
ちょっと様子を見に行くと
まだ目は閉じているものの いかにも機嫌わるそうに
体をあちこちよじっている

ひとしきり 右手で頭をくしくし掻いて
そうしてそれからその右手 隣の枕のあたりに伸ばすが
めあてのものには触れない

         (母さんはおふろに入っておられます)

すると再びひとしきり ひんひんふんふん不満を述べて
右手で頭をくしくし掻き
そうしてそれから今度こそはと 枕のあたりに手を伸ばすが
めあてのものには触れない

         (母さんはおふろに入っておられます)

そんなこと三度も四度も続けたら
彼としては もうどうにも我慢ならない
しぶしぶ目を開け
両腕つっぱって
でかい頭もたげると
ベッドの上にのっしと座る
おとぎばなしの森にいる キノコみたいな後ろ姿

キノコゆっくり振り向いて
僕と目が合う
哀しくて哀しくて この世の終わりみたいなかお

ふうふうん

「お母さん おふろ入ってんねん」

ふうふうん

「お母さん おふろ入ってんねん
 すぐ帰ってくるわ」

ふうふうん!

眉間にシワ
鼻はぴいぷう
ちょぼっとしたくちびるは への字にぐいぐい持ち上がり
さあさあこれはもう
わん泣き
ぎゃん泣き
泣いて泣いて泣くがいいと 覚悟を決めて見ていると

今夜にかぎってそこからは
ちょっと違っていたのだ

彼は泣かなかった
ふうんと深い息ひとつ吐くと
僕の目 見つめてあぐらをかいて
暗い部屋の中 じっとしていた

(おまえ
 お母さんいなくて哀しいの我慢してるんか)

(お母さん帰ってくるまで
 泣かんとこうとしてるんか)

「えらいなあ」

やがて風呂からあがった母さんが息子のそばに座ると
先刻までの大人めいたやつは あっというまにどこかへ消えた

母さんのふとももの間に突っ伏し
にゃあにゃあ言いながら柔いところまさぐり

(どうしていなかったの?
 どうして僕の目が覚めたときに隣にいなかったの?)

特権的な 不平不満を述べている

まあそれでもさっきの振る舞いは なかなか立派だったぞと
ちょいと頭をなぜてやったが
こちらにはふいと一瞥だけ
あとはぷいっと母親のほうを 向いてしまってそれっきり

今度はこっちが哀しいが
それもいい それでいい

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強風

前は簡単に出来ていたことが
今は簡単に出来ない
前と同じことをするために
前の何倍かの労力を要する
きみの頭の中は常に強風

そのうちまた
前と同じように出来るようになるだろうと
思ったり願ったりしているが
出来なくなってから
もう五年以上経っている
きみはそろそろ
状況を受け入れなくてはならない
前と同じように出来るようにはならない
元には戻らない

きみの頭の中で起きたこと
きみの頭の中で起きていることを
ひとに伝えるのは難しい
ほとんど不可能と言っていい
僕は今ここに
このように座っていますが(立っていますが)
実はいま僕の中ではとても強い風が吹いていまして
あなたの声を聴き取るだけでも一苦労なのですと
そのように言ったところで
誰がわかると言うのだろう?
わかってもらえないと責めてはいけない
わからないと言ってくれるひとの
率直さに感謝すべきだ

きみはきみの中の強風を受け入れるべきだ
凪ぐのを待っていても無駄なこと
この強風の中で
聴き取り
話し
息をするやりかたを
そのできるだけうまいやりかたを習得していくしかない
そのように受け入れて
なんとか御していくべきだ

わかってほしい

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Zabadak "桜"

Sakura

発表からもうすぐ二十年とは、なかなか信じがたい思いがする。
史上稀にみる名盤であり、傑作だと思う。
惜しむらくは、知るひとが少ないことだ。

吉良知彦と上野洋子のデュオとしてのザバダックは、
このアルバムで最後になった。

十の曲が収録されている。
吉良さんが六曲、上野さんが三曲を作っている。
あと一曲は古い民謡だ。
そして上野さんが六曲、吉良さんが三曲を歌っている。
あと一曲は歌詞が無い。

二人の優れた音楽家が、
アルバム一枚とおして、ぎりぎりのところでぶつかっている。
そして、相手が書いた曲の中で
もう一方が記名性を帯びた演奏をするとき、
クリエイティブな奇跡が起きている。

本当に希有な瞬間が、
琥珀のようにレコードに封じられたのだと思う。
その希有な組み合わせが
もう失われてしまったのは残念でならないが、
もうこれ以上は本当に無理だったのだろう、とも感じられる。

『五つの橋』や『休まない翼』、
そして『Tin Waltz』を、
鉱物を眺めるみたいにして、僕はしげしげと一生聴くと思う。

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いちばん好きな十枚の

順位は決められないので、アルファベット順で。


Achtungbaby
U2 "Achtung Baby" (1991)


Meddle
Pink Floyd "Meddle" (1971)


Nightfly
Donald Fagen "Nightfly" (1982)


Sakura
zabadak "桜" (1993)


Secretstory
Pat Metheny "Secret Story" (1992)


Takk
Sigur Ros "Takk" (2005)


Tapestry
Carole King "Tapestry" (1971)


Setagaya
フィッシュマンズ "宇宙 日本 世田谷" (1997)


Vespertine
Bjork "Vespertine" (2001)


Whatsgoingon
Marvin Gaye "What's going on" (1971)


1971年が三枚。
71年は
ジョン・レノンがイマジン、
ストーンズがスティッキーフィンガーズ、ツェッペリンがⅣ、
ジョニ・ミッチェルがブルーでジャニス・ジョプリンがパール。
個人の好みは脇に置いても、すごい年だ。

ピンクフロイドは原子心母→おせっかい(meddle)→狂気の三枚が絶頂。
その中、なんでおせっかいが図抜けて好きななのか?
正直わからない、説明できない。
ほかの二枚にくらべて、ぼんやりしているからだろうか。

マーヴィン・ゲイについては思春期以降ずっと
これじゃなくて、次のLet's Get It Onのほうにずっと耽溺していた。
ところが息子が生まれて、
だっこで寝かしつけるときにWhat's Going Onを流したら、効果てきめん。
ありがとうマーヴィン、
40年後の東京で、子守歌になってます。

そして、キャロル・キングのタペストリー。
人類遺産。
何をいつからどのように聴いても
郷愁であり感傷であり、徒労であり慰撫である。

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