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スーパーマーケット

日曜の夜、仕事帰りに寄ったスーパーマーケットで、
一歳ぐらいだろうか、まだよちよち歩きの男の子が
興味津々、棚の間を歩きまわりながら、
ヨーグルトやらマヨネーズやら、
届くところの品々に、紅葉みたいな手を伸ばしている。
そのたびごと、
うしろについている心配顔の若いお父さんが、
さわっちゃだめ、持ちなさんなと注意するのだが、
男の子は訊いているような訊いていないような、
とうとう最後は500ミリのビール缶を両手で持って、
お父さんに正面向いて、どうだとばかり頭上に掲げた。
これには流石にお父さんも苦笑い、
それからベビーカーを押しているお母さんや、
夫婦のところへ遊びに来ているらしい
おじいさんとおばあさんも加わって、家族で大笑いとなった。
男の子は大いに得意、
彼が着ているコーデュロイの上着、
あれは老夫婦から孫へのプレゼントだろうか、
サイズは70か80、すぐにも着れなくなるだろうけど、
とても良いものに見えた。

僕が自分のビールをカゴに入れてレジへ持って行くと、
顔馴染みのパートのヨシダさんが、
その家族の様子に目を細めながら
「カワイイデスネ」
と、いとおしそうに言う。
ヨシダさんは日本の名字だが、
言葉に中国のアクセントがはっきりあって、
海を渡って嫁いできた人と思われる。
「ほんとにね」と僕も答えながら、
日曜の仕事の疲れも、いくぶん軽くなるような気持ちがする。

勘定を済ませて歩き出した先に、
3歳ぐらいの女の子を抱きかかえた若いお母さんが立っていた。
細いグレーのコートはどうやら仕事帰り、
延長保育に預けた娘をようやく迎えに行ったところだろう、
しかし女の子はどうにも不機嫌、
何をされても気にくわない様子で、
えんえん言いながら身をよじるから、
お母さんの持っているカゴが飛び出て通路をふさぐ。
それに気づいて、こちらに
「どうもすいません」と疲れた声で小さく言うので
「ちっともかまいません」
と、本当にそう思いながら答えると、
女の子はちょっと恥ずかしくなったのだろうか、
ぐずるのをやめて、こちらをじっと見ていた。

いとおしさもわずらわしさも、
みんなこどもがくれるものだ。
前はそうでもなかったが、今はそうだ。
顔を見たくて、急いで帰った。

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